連作障害と土壌病

 農業を営む上で、最大の敵は連作障害にあると考えています。特に施設栽培では、その被害が顕著で、年々収量や秀品率が減り、深刻な問題となっています。
 また、連作障害が深刻なのはそれだけではありません。連作障害が進むと土壌病が発生し、ハウスの半分や、ほとんどが枯れてしまったという話もよく耳にします。そういったところは殺菌性の強い農薬を使って、土壌を消毒するのですが、それでも効かなくなり、新しい農薬が開発される事を期待されている方も少なくないでしょう。

 では何故連作障害は起こるのでしょうか。

 植物の外壁は、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン、リグニンから形成されていますが、セルロース、ヘミセルロース、ペクチンは、βグルコースという糖で作られた多糖類というものになります。糖なので構造が至極単純で、微生物も好み、簡単に分解されていきます。ワラを想像していただければ分かりやすいのですが、ワラはセルロースの比率が高いので、土壌でも早くに分解して無くなっていきます。これらに対して、リグニンはフェノールとカルボン酸からなり、非常に複雑な三次元構造の環で出来ており、分解が容易ではありません。
 土壌中にこの残さを大量に残す事になるのが、残根です。意外と知られていませんが、水稲一株で、根を横一列に並べた時の根の長さは12キロになります。これは実際に大学の研究で発表されていたものですが、これとは別に不思議の植物学という本には、4か月育てたライムギの根の長さは620キロ、根毛を含めると11200キロ、根の数は1300万本と、先ほどとは実験の仕方も目的も違うのか、かけ離れたものとなっていますが、どちらにせよ相当の根が、土の中で存在しているかが分かります。株から引っこ抜いても、想像以上に土壌には根が堆積していきます。連作すればするほど、この有機残さは増えていき、特に分解の遅いリグニンは、大量に土中に存在することになります。また、土中10センチ以下の無酸素下になると、微生物による分解速度も落ち、有酸素化の8倍近く分解に時間を必要とする事もあります。
 そうして土壌中で蓄積したリグニンは、数年たってからジワジワ分解を始め、リグニン酸を放出します。このリグニン酸は強烈で、根をやき根域を委縮させていきます。これがリグニン濃度障害であり、連作障害の始まりです。根域が減る分、肥料の吸収力や、たんぱく質の合成力が落ちるため、連作障害になると、収量や秀品率が低下していくわけです。

 

連作障害から土壌病へ

 それだけではありません。この状態は異常であり、健全な状態ではありません。そこでこの状態から土壌を回復するために大活躍するのが、木材腐朽菌と呼ばれる微生物群です。リグニンの分解率の高い白色腐朽菌や、セルロースの分解率の高い褐色腐朽菌は、ある程度下準備してもらわないと働いてくれません。そこで木質をバラバラにし、白色腐朽菌などの担子菌群が活動しやすい状態を作り出すのが、軟腐朽菌と呼ばれる菌群です。
 軟腐朽菌は、子嚢菌や不完全世代の菌であり、ピシウム属菌やフザリウムなどがあります。
 これらの事から、土壌病は連作障害の延長上にあり、起こるべくして起こっている病害になります。実際、これらの病害が起こる圃場で、新たな要因がなければ、放っておいても早ければ4,5年で病気は治まるでしょう。また、バイオマス研究で、最も注目されている菌が、ラルストニア属です。そう、青枯れの主菌、ラルストニア・ソラナケアラムのラルストニア属です。マイシス系と並んで、非常にリグニンの分解力に優れた酵素を産出します。
 では、なぜこれらの菌群が、作物にとって害であっても、土壌に必要とされるのでしょうか。それは、リグニンが構成している物質が、腐植そのものの塊であるからです。リグニンは腐植の構成物である、フェノールとカルボン酸からなりますので、腐植の集合体がリグニンと考えても結構です。リグニンが分解され、リグニン酸を出し、連作障害を起こさせ、土壌病まで引き起こしますが、自然界にとっては大地を豊かにしてくれる、非常に有益なサイクルなのです。また、現代は急速に収益性が上がったため、その分の土壌に与えている負荷が、常在菌でカバーできる範囲を超えてしまっているのも、病原菌を増やす原因であると考えます。ただでさえ土づくりで土壌を豊かにし、微生物数を増やしていかなければならないのに、農薬で殺菌してしまう形になっているのが現状です。